恥ずかしさゆえの葛藤
恥ずかしいと思う対象は人それぞれであると思うが、私の目の前にいる少年、
偶然同じエレベーターに乗り合わせた少年は
どうやら「おやすみなさい」と言うことに恥ずかしさを感じるようだ。
夜、自分が住むマンションに帰って来ると、ロビーやエレベーターでよく住民と顔を合わせる。大概、すれ違う程度なら「こんばんは」。エレベーターに乗り合わせて、一方が先に降りるときには「おやすみなさい」と声をかける。
特別深い意味はない。挨拶である。
しかし、外での活動時間が昼間に限られる少年にとって、深い意味がない挨拶といえば、「おはようございます」「こんにちは」程度であろう。
「こんばんは」はまだしも「おやすみなさい」なんて、親にしか使わないフレーズに違いない。
多感で純粋無垢である思春期の少年にとって、赤の他人に「おやすみなさい」と言うなんて、深い意味などなくても恥ずかしい。
結局、少年はエレベーターを降りる際、私に「さようなら」といい去っていった。
あまりに可愛かった。